変化には当然のように副作用がつきもので、どこか他の場所でバグを出してしまうこともあります。ここには現時点で私たちが知っている問題点を記載しています。正誤表・関連パッケージの付属文書・バグ報告や、もっと読みたい, 第 6.1 節で触れられているその他の情報も読んでください。
2.6.17 以降の Linux は、RFC 1323 で指定された TCP
ウィンドウのスケーリングを積極的に使用しています。サーバによってはこれに対しておかしな挙動を示し、ウィンドウサイズを誤って認識することがあります。さらに詳しくはバグ
#381262
と #395066
を参照してください。
一部の古いシステムでは、もはや shutdown -h
で電源がオフにならないかもしれません
(しかしシステムの停止だけはします)。これは、電源オフに apm
を使用する必要があるためです。grub
や lilo
の設定ファイルでの指定などを通じて、カーネルのコマンドラインに acpi=off
apm=power_off
を追加すれば、この問題は解決するかもしれません。さらに詳しくはバグ #390547
を参照してください。
Packages ファイルの差分のみをダウンロードするようなサポートが apt
に加えられました。この機能は、ネットワーク接続が大変な人々には便利ですが、非常に近くにミラーがある人々はこの機能を無効にしたいと思うかもしれません。無効にするには、/etc/apt/apt.conf
に Acquire::Pdiffs "false"; を追加してください。
HP ラップトップの一部のモデルでは、ACPI BIOS が、etch 付属の Linux 2.6.18 カーネルと非互換になりました。この変更によりファンの回転数が上がらなくなり、不必要な熱応力が生じるでしょう。また、システムのサスペンド後にファンが働かなくなる可能性があります。そのため、ACPI BIOS の特定のバージョンを検出すると、カーネルは内部的に ACPI サポートを無効にします。この変更が関係することがわかっているモデルには、HP nx6125、nx6120、nx6325、nc6120、nc6000 などがあります。
これらのシステムで ACPI サポートが必要なユーザは、2.6.19 以降の Linux
カーネルをインストールするとよいでしょう。さらに詳しい情報は、Debian のバグ
#404143
や #400488
、そして Linux Kernel
のバグ #5534
や
#7122
を参照してください。
2.6 系カーネルは、2.4 系カーネルから大きな変更が加えられています。モジュールの名称が変更され、多くのドライバが部分的あるいはほとんど完全に書き換えられました。したがって、以前のバージョンから 2.6 系カーネルへのアップグレードは、それほど簡単に済ませられるものではありません。このセクションは、直面するかもしれない問題のいくつかを知っておいてもらおうというのが狙いです。
それゆえ、sarge から etch へのアップグレードの一部として 2.6 系カーネルへのアップグレードを行うのはお勧めしません。まずは、システムが etch の 2.4 系 (もしくはそれ以前のバージョンの) カーネルで正しく動作するのを確認すべきです。その後、別の課題として、2.6 系カーネルへのアップグレードを実施してください。
ソースから自分でカーネルをコンパイルしている人は、2.6
系カーネルで再起動する前に、module-init-tools
がインストールされているのを確認してください。このパッケージは、modutils
を 2.6 系カーネル用のものに置き換えます。Debian の linux-image
パッケージのどれかを使っている場合は、依存関係により自動的にこのパッケージが入っているはずです。
LVM を使っている場合は、2.6 系カーネルで再起動する前に
lvm2
パッケージもインストールしてください。2.6 系カーネルは LVM1
を直接はサポートしていません。LVM1
のボリュームにアクセスするには、lvm2
の互換レイヤ (dm-mod
モジュール)
が使われます。初期化スクリプトがどのバージョンのカーネルが使われているかを検出し、適切なバージョンを実行するので、lvm10
はインストールしたままでも構いません。
/etc/modules
ファイル
(システム起動時にロードされるモジュールの一覧)
内に記述をしているなら、いくつかのモジュール名が変わっているかもしれないことに注意してください。変わっている場合は、ファイル内の記述を新しいモジュール名で更新しなければならないでしょう。
いくつかの SATA
ディスクコントローラでは、ドライブやそのパーティションに割り当てられたデバイスが
/dev/hdX
から /dev/sdX
に変わっているかもしれません。変わっている場合は、/etc/fstab
とブートローダの設定を適切に修正しなければならないでしょう。これらの修正が正しく行われないと、システムは適切に起動しない可能性があります[7]。
2.6 系カーネルをインストールした後、再起動を行う前に、復旧手段を用意するようにしてください。まず、ブートローダの設定に新しいカーネルと稼働中の古い 2.4 系カーネルの両方の記述があることを確認してください。ブートローダの設定が間違っていたために古いカーネルで起動できなくなる場合に備え、"レスキュー用の" フロッピーか CD-ROM が手元にあることも確認しておくべきでしょう。
2.6 系カーネルでの最も劇的な変化は、入力レイヤの基本部分の変更です。この変更により、すべてのキーボードは「ふつうの」PC キーボードのように扱えます。これは、現在異なるタイプのキーボード (例えば USB-MAC や Sun キーボード) を選択している場合、新しい 2.6 系カーネルで再起動後にキーボードがまったく動かない状態になってしまう可能性が非常に高いということです。
別のシステムからそのマシンへ SSH を使ってログインできるのなら、dpkg-reconfigure console-data と実行して "Select keymap from full list" オプションを選び、そこから "pc" キーボードを選択することでこの問題を解決できます。
コンソールで使っているキーボードが影響を受けたということは、X Window System
のキーボードも再度設定する必要があるでしょう。dpkg-reconfigure
xserver-xorg を実行するか、/etc/X11/xorg.conf
を直接編集することになります。再起動の前にすべきこと, 第 4.6
節で参照されている文書も読んでおいてください。
この問題は、すべての PS/2 および大半の USB キーボードがすでに "normal" PC キーボードとして設定されている Intel x86 アーキテクチャでは影響がないでしょう。
これも入力レイヤの変更によるものですが、2.6
系カーネルへアップグレードした後でマウスが使えなくなったなら、X Window System
と gpm
を再設定する必要があるでしょう。よくある原因は、マウスからのデータを受け取るデバイスが変わったせいです。別のモジュールをロードする必要もあるかもしれません。
2.6 カーネル用としては、OSS サウンドドライバよりも ALSA
サウンドドライバが推奨されます。ALSA
サウンドドライバは、デフォルトではモジュールとして提供されます。サウンドを鳴らすには、あなたのサウンドハードウェアに合ったモジュールがロードされる必要があります。一般に該当モジュールがあり、alsa-base
に加えて hotplug
パッケージか discover
パッケージのいずれかがインストールされていれば、自動的にロードされます。alsa-base
パッケージはまた、OSS モジュールが hotplug
や
discover
によってロードされないようそれらを
"ブラックリスト化" します。/etc/modules
内に OSS
モジュールの記述があるなら、それらを削除すべきです。
udev
は、devfs のユーザ空間での実装です。これは /dev
ディレクトリにマウントされ、カーネルモジュールがロード・アンロードされるときにデバイスファイルをディレクトリに動的に作成・削除します。また、新しいデバイスの検出は、hotplug
とともに動作するようになっています。udev
は 2.6
系カーネルでしか動作しません。
2.6 系カーネルでは、initrd の生成にデフォルトで initramfs-tools
が使われます。このパッケージの依存関係により udev
が自動的にインストールされます。そのため、2.6
系カーネルへのアップグレードにより、通常は udev
が動くようになります。yaird
など別の initrd
生成パッケージをインストールすれば、udev
をインストールするのを回避できます。initramfs-tools
が推奨される
initrd 作成パッケージです。
udev
は広範囲にわたってテストされていますが、いくつかのデバイスでは若干の修正が必要になるという問題があるかもしれません。たいていの問題は、デバイスファイルの権限や所有者が変更されるというものです。(/dev/video
や /dev/radio
など)
デフォルトではデバイスファイルが作成されない場合もあります。
udev
は、これらの問題に対処する設定の仕組みを提供しています。詳しくは、udev(8)
や /etc/udev
を見てください。
X.Org への移行は多少の構造的変化を伴います。インストール済みのパッケージがすべて Debian 製のパッケージで etch にも含まれている場合、アップグレードは問題なく行われるはずです。しかし、アップグレードの過程で問題が生じる可能性があるため、知っておくべき問題点がいくつかあることが経験的に明らかになっています。
最も重要な変更点は、/usr/X11R6/bin
が削除され、/usr/bin
へのシンボリックリンクとして残されるだけになるということです。つまり、このディレクトリは新しいパッケージがインストールされる時点で空になっていなければいけません。新しいパッケージは、/usr/X11R6/bin
を使用していたほとんどのパッケージと衝突するようになっていますが、場合によっては手作業での介入が必要になります。絶対に、X
セッション内ではアップグレードを実行しないようにしてください。
X.Org
のインストール中にアップグレードが中断した場合、/usr/X11R6/bin
にまだ残っているファイルがあるか調べなければなりません。そうしたら
(そこにファイルがあれば) どの Debian
パッケージがそのファイルをインストールしたかを dpkg -S
で調べ、該当するパッケージを dpkg --remove
で削除できます。後で代わりのパッケージをインストールできるよう、削除したパッケージを書き留めておいてください。アップグレードを続ける前に
/usr/X11R6/bin
にあるファイルはすべて削除する必要があります。
さらに詳しい情報やその他の問題点については http://wiki.debian.org/Xorg69To7
を読んでください。
etch リリースで時代遅れとして扱われるようになったパッケージの 1
つに、メール転送エージェント (MTA) の exim
があります。このパッケージは、完全に新しいパッケージである exim4
によって置き換えられました。
それだけでなく、exim
(バージョン 3.xx)
はもう何年もの間、上流でメンテナンスされていないので、Debian
ではこのバージョンのサポートを打ち切りました。まだ exim
3.xx
を使用している場合は、インストールしている exim
を
exim4
に手作業でアップグレードしてください。exim4
は既に sarge に含まれているので、etch へのアップグレードの前に sarge
システム上でこのアップグレード作業を行うか、etch
へのアップグレードの後で都合のよいときに行うかは選択可能です。ただ、古い
exim
パッケージが自動的にアップグレードすることはなく、sarge
のサポートが打ち切られた後はそのパッケージへのセキュリティサポートは行われないということだけは覚えておいてください。
Debian の exim4
パッケージ群は大規模に文書化されています。パッケージのホームページは Debian
Wiki の http://wiki.debian.org/PkgExim4
で、README ファイルはパッケージ内部だけでなく http://pkg-exim4.alioth.debian.org/README/README.Debian.html
にもあります。
README ファイルにはパッケージ化 (Packaging)
に関する章があります。この章では、Debian
で提供されている複数の異なるパッケージの差異について説明しています。また README
ファイルには Exim
3 からのアップグレード (Updating from Exim 3)
に関する章があります。この章は、実際に移行を行う際に役に立つでしょう。
Apache は新しいバージョン 2.2 にアップグレードしました。普通のユーザはこのアップグレードによる影響を受けませんが、知っておくべき、生じる可能性がある問題点がいくつかあります。
http://httpd.apache.org/docs/2.2/upgrading.html
に、上流での変更が記載されています (訳注:
本リリースノート執筆時点では、リンク先の日本語のページに記載されている情報は
1.3 から 2.0 で入った変更なので、2.0 から 2.2
で入った変更については英語のページを参照してください)。このページを読み、特に以下の内容を記憶に留めておいてください。
Debian 特有の変更としては、デフォルトパッケージが ssl をサポートするようになったため、SSL という文字列がもう定義されていない、などが挙げられます。
長年、PHP で register_globals の設定をオンにすることは安全でなく危険であるとわかっており、このオプションはこれまでかなりの期間、デフォルトではオフになっていました。この設定が、あまりにも危険であるとして、ついに Debian システムでは廃止されました。同様のことが safe_mode と open_basedir の欠陥にも当てはまります。これらの欠陥はやはり、かなりの期間メンテナンスされていません。
本リリース以降、Debian セキュリティチームは、安全でないとわかっている PHP の多数の設定についてはセキュリティサポートを提供しません。最も重大なのは、register_globals がオンになっているために生じる問題への対処は、もはやなされないということです。
register_globals
を必要とする旧式のアプリケーションを実行する場合は、例えば Apache
の設定ファイルを用いて、該当する各パスのみに対してこの設定を有効にしてください。さらに詳しい情報は、PHP
の付属文書のディレクトリ (/usr/share/doc/php4
や
/usr/share/doc/php5
) に含まれている
README.Debian.security
ファイルで入手可能です。
Mozilla のプログラムである firefox
と thunderbird
(Debian ではそれぞれ iceweasel
と icedove
に商標が変更されている。)
は多数のユーザにとって重要なツールです。しかし残念なことに、上流のセキュリティポリシーは上流の新しいバージョンに更新するようユーザに強いることで、これは、セキュリティアップデートには大きな機能変更を含めないという
Debian のポリシーと矛盾します。いつになるかは今のところわかりませんが、etch
のサポート期間の間に、Mozilla 製品のサポートがもはや Debian
セキュリティチームにとって実現不可能になり、Debian セキュリティチームが Mozilla
製品のセキュリティサポートの終了を発表するときが来るかもしれません。Mozilla
製品をインストールするときはこのことを考慮に入れ、セキュリティサポートの終了が問題になると考えられる場合は
Debian で提供されている代替プログラムの使用を検討してください。
etch に含まれているバージョンの KDE
では、メディアの取り扱い方法が、device:/
を用いたアドレスから
media:/
を用いたアドレスへと変化しました。一部のユーザ設定ファイルには
device:/
を用いたリンクが含まれている可能性があるので、それらは新しいアドレスに合うよう修正すべきです。特に、~/.kde/share/apps/konqsidebartng/virtual_folders/services
には device:/
を用いた参照があります。このファイルは、新規ユーザをセットアップしたときには作成されないので、安全に削除できます。
KDE デスクトップ環境は、sarge に含まれていたバージョンから etch
に含まれているバージョンまでに多くの変更が加えられました。さらに詳しい情報は
KDE 3.5
のリリースノート
にあります。
sarge で GNOME デスクトップを使用していた場合、etch になって Debian でのデフォルトの設定に導入された変更のうち一部は役立たないでしょう。極端な場合、GNOME デスクトップは過去の設定内容を適切に扱えず、正しい振舞いをしない可能性があります。
GNOME
デスクトップの設定を大幅に変更していないのであれば、ユーザのホームディレクトリ内の
.gconf
ディレクトリを別の名前 (.gconf.old
など)
に変更するとよいでしょう。そうすれば、新しいセッションを開始したときに
.gconf
ディレクトリは作成しなおされ、etch
のデフォルトの設定を含むようになります。
etch のリリースから、Debian には、もはやサポートされていない GNOME バージョン 1 リリースのパッケージの大半が含まれなくなりました。しかし、GNOME 2 を使うよう更新されていないいくつかの Debian パッケージをサポートするため、一部のパッケージは残されています。GTK1.2 のパッケージはまだ完全に保守され続けています。
GNOME デスクトップ環境は、sarge に含まれていたバージョンから etch
に含まれているバージョンまでに多くの変更が加えられました。さらに詳しい情報は
GNOME 2.14
のリリースノート
にあります。
vim
をデフォルトのエディタとして使用していた場合、アップグレードの過程でデフォルトのエディタが
nano
に変更される可能性があります。
管理者は、すべてのユーザ向けのデフォルトのエディタを変更したい場合、以下のようにして alternatives システムを更新してください。
# update-alternatives --config editor
ユーザは、デフォルトのエディタを変更したい場合、自分のプロファイルに以下のような行を加えて環境変数 EDITOR を設定してください。
EDITOR=vi export EDITOR alias editor=$EDITOR
Debian GNU/Linux 4.0 ("etch") リリースノート (Intel x86 用)
$Id: release-notes.ja.po,v 1.7 2006/11/28 07:09:59 jseidel Exp $debian-doc@lists.debian.org