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[debian-users:07693] Debian for Enterprise. (was Re: Q: Are these filesystems available?)
- From: "Ken N." <kenn@xxxxxxxxxxxxxxxxx>
- Subject: [debian-users:07693] Debian for Enterprise. (was Re: Q: Are these filesystems available?)
- Date: Sun, 16 Aug 1998 21:19:30 +0900
- X-ml-info: If you have a question, send a mail with the body "# help" (without quotes) to the address debian-users-ctl@debian.or.jp
- X-ml-name: debian-users
- X-mlserver: fml [fml 2.1A#45]; post only from members
- Message-id: <199808161108.UAA24026@xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx>
- X-mail-count: 07693
- X-mailer: mnews [version 1.21] 1997-12/23(Tue)
中途半端な書き方をしてしまったので、あらためて整理して投稿します。
このような話題に興味のあるかたは時間がある時にでもフォローして下
さい。
0. はじめに
今、仮に、あなたの知合いが、彼の会社の基幹システムにNTを導入
しようとしているという場面を想定して見ましょう。今現在彼はNT
以外の選択肢については何も知らないものとします。このとき、彼
に対して、
「いや、ちょっとまて。NTなんか使うよりDebianを使いたまえ」
と自信を持って勧めるために、どのような説明のための材料を用意
しておかなくてはならないか、ということを考えてみます。
a. Debianとは何か、ということ
b. 技術関連情報。何ができるのか、ということ
c. 「なぜ、Debianのほうをつかうべきなのか」ということ
a,b についてはいろいろな情報が既に存在しています。問題はc.で
す。「企業ユーザがその企業の情報システムとして使用する」とい
う観点からDebianを評価しているという文書は私は読んだ事があり
ません。この観点は個人ユーザやいわゆるPower ユーザ、あるいは
hackerたちの観点とはまったく異質のものです。
この全く新しい視点からのDebianの評価ということを、私なりに少
し考えていたのですが、その考察の結果を以下にまとめてみたいと
思います。
1. 前提事項
「企業情シスとしてのDebian」というものを考える上で、いくつか
のことがらを前提にあるいは仮定します。
a. 「Debian」を想定する
Redhat LinuxでもTurbo Linux でもありません。前提とするの
はあくまでも「Debian」です。(RHLやTLを企業の情シスにどう
やって食い込ませるかはそれぞれRHSとPHTが考えればいいこと
です。)
また、Linuxには必ずしもこだわりません。もちろん、Linux
baseのDebianを想定する事が一番現実的ではありますが。
(Debianとは何で、何を意味するのか、ということはこのあと再
度整理します。)
b. 基幹システムを含む企業情報システムへの適用を想定する
私自身は会社(ITCのほう)でも仕事でDebianを使用しています。
文書の作成が主な用途です。ここで想定しているのはこのよう
な使いかたの事ではありません。つまり、一部のPower ユーザ
が自分のツールとして選択するDebianのことではなく、企業活
動の情報インフラとしてのDebainということを考えます。
c. ユーザの技術レベルについては予断をおこなわない
ユーザについては、「まずまずまっとうなユーザ」を想定しま
す。システムの導入と運用について必要な情報を集め、吟味し、
評価することができるということを仮定します。例えば、訳も
分からないままに基幹系にNTを大量導入して泥沼にはまってし
まうような種類のアホはとりあえず無視します。
しかし、ユーザの技術力やスキルについてはなんの前提も設け
ないものとします。企業においてはシステム導入の「決断」を
行う者と実際の運用管理にあたる者は必ずしも一致しません。
d. 瑣末な技術的問題については目をつぶる
アプリケーションのレベルでできることできないことの比較は
行いません。例えば、日本語処理に関する技術的課題などはと
りあえず脇においておきます(これは実際には瑣末な問題ではな
いのですが)。
現在、Oracle, Infomix, Corel, Applix などがすでにLinux 上
での業務アプリケーションを既に発売、またはこれから発売す
る事を表明しています。「NT, Solarisではできるが Linuxでは、
まだだ」というのはなくなりつつありますし、Debian
(GNU/Linux)もまたしかりです。つまり、「各OSの機能比較」と
いうようなことを私は今回は議論するつもりはありません。
2. Debianの本質についてもう一度考えてみる
DebianはSPIが提供するOSです。現在はLinux kernelをbaseとしてい
ますが``Debain GNU/Hurd''や``Debian GNU/Win32''など、Linux以
外のシステムをbaseとするものについても作業が開始されています。
「Linux の一つとしてのDebian」というところからちょっと離れて
Debianそれ自体の特徴を抜きだしてみると、大体以下のようになる
でしょう。
a. SPIはNPO(非営利法人)であり、DebianはSPIによってFree
softwareであることが保証されている。
b. 開発者は善意のボランティアであり、地理的には世界中に点在
している。しかし、分散協調開発を支援するための仕組みづく
りや指針の策定が行われ、機能している。
c. 技術面での特徴としては、dpkgによるパッケージ管理システム
が挙げられる。
Debianをこうした「本質的特徴」とともにビジネスの世界に持ち込
もうとするときの課題について考えてみようというのが今回の趣旨
です。
3. ビジネスとバザールとの間隙
a. Impedance mismatch
ラグビーをご存知ですか?ご存知のかたなら``One for All,
All for One.''という言葉を一度くらいは聞いた事があるはず
です。Free software のcommunity は、これと同じ理念に支え
られています。フリーソフトに限らず、およそ「ボランティア」
というものの基本でもあります。「ボランティア」というのが
Debianのコミュニティでの自分と他人との間のインタフェース
であり、``One for All, All for One''というのが自分とコミュ
ニティ全体とのインタフェースになります。
企業では、自社と他社の間のインタフェースは全く異なります。
責任分界点を明確にし、契約を交わし、金銭と物品または金銭
とサービスとを交換します。インタフェースの形状が全くこと
なるため、Debianのコミュニティと企業とを直接つなぐ事はで
きません。たとえば、Debian JP Project とどこかの企業が契
約を取り交わすということは起こり得ないわけです。
このまったく異なるインタフェースの間に立って緩衝を行うの
は、実際にはたとえばHypercoreのようなサポート企業の役目に
なりますが、そのサポート企業がインタフェースの擦り合わせの
ためにいったいどのくらいのことをこなさなければならないの
かが問題です。私は、これは実際には多大な労力と技術力を要
するのではないかと考えています。
「インタフェース間の緩衝」ということを明確に打ち出しした
のであれば、そのサポート企業からDebianを導入した企業は、
そのDebianをサポート企業の「ソフトウェア商品」とみなしま
す。単なる「CD-ROM焼き込みサービス」ではない、と言う事で
す。自社商品である以上、サポート企業は競争力を維持しなく
てはなりません。例えばRed Hat softwareは「Linux のCD-ROM
製作サービス」を提供しているのではなく自社OSとして
「RedHat Linux」を出しているわけですが、商品価値の向上の
ために rpm, glint, logrotateその他のソフトを開発していま
す。RedHatの場合はLinux kernelをもとにしているわけですが、
これがDebianであっても本質的には同じ事です。
つまり、Debianサポート企業に対するDebianコミュニティから
の支援というものが、今の所明確な形では存在しないため、
Debianを企業に導入させる上で必要となる緩衝役に高い負荷が
かかるのではないかと予想されます。
b. ``That's none of my bussiness.''
RedHat SoftwareのWeb site を覗いて見て下さい。errataのペー
ジです。``Manhattan(RHL 5.1)''がリリースされた現在におい
ても4.x 系の情報が掲載され、さらに、パッケージが保守され
ているのがわかります(実際には、``Colgate(RHL 4.0)''などの
本当に古いものについては、「セキュリティフィックスもやら
ないよ」ということが明記されています)。ソフトウェアの継続
的サポートとはこういうものです。
で、Debianですが、hammがリリースされた現在、boはミラーサ
イトにしか存在しません。まあ、rex もなんか知らん間に消え
たので嫌な予感はしていたんですが、「ああ、やっぱり」とい
うかんじですね。
netgodによれば「libc5はもう廃れた」ということですが、SPI
のほうの正式な見解は私は知りません。一つ言えるのは、開発
サイドにとって「boはobsoleted」であろうとなかろうと、企業
ユーザにとっては知った事ではない、ということです。企業ユー
ザにとっては、自分たちがまだboを使っているのであればboは
obsoletedではないのですから。
一方、SPIにしてみても、企業ユーザにとってboがobsoletedで
はないなどということは知った事ではありません。彼ら自身は
その企業との間に何の契約も交わしておらず、また、一銭もも
らっていないのですから、このことに関してなんらかのdemand
を甘受するいわれはありません。
結局、この間隙を埋める事もまたサポート企業の役割となりま
すが、サポート企業の活動だけで埋められるものなのかどうか
について不安があります。つまり、「開発者サイドは、企業と
同じ視点でその活動を行っている訳ではない」ということが企
業ユーザにとっての大きな心理的抵抗として残るのではないか
ということです。「ビジネスにフリーソフトなんて... 」と言
下に否定する人間は珍しくありませんが、それにはこういう理
由があるのではと考えています。
c. Time IS money
TCO(Total Cost of Ownership)という言葉をご存知でしょうか。
この場合、企業情シスの導入と運用、維持管理に関する全コス
トを言います。ハードウェア、ソフトウェア、要員などが算出
の基準になります。時間もまたそうです。
企業は「絶対的な安定性と信頼性」など求めません。「絶対的
な高性能」など求めません。自社の企業活動のために必要十分
な品質と性能を価格とともに考慮して評価します。また、要員
は重要な問題です。誰も使う事ができないシステムはどんな企
業も導入しません。現実的なコストの範囲で運用要員が確保で
きないシステムを導入する企業はありません。
TCO の削減は企業にとって大きな課題です。しかしその前に、
まず、「TCO が算出可能である事」が必要です。あたりまえで
すね。では、DebianはTCO 算出可能であるでしょうか。私はNo
だと思います。
Free Software の導入コストは非常に低く押えられる事は良く
知られています。しかし、導入コストだけがコストではありま
せん。DebianのCD-ROMが数千円で手に入ったからと言って企業
にとっては何の解決にもなりません。運用に必要な費用を算出
するための情報がほとんど得られないからです。
さらに、自社の情報システムの将来計画を立てるための情報も
ほとんど得る事ができません。開発サイドにマイルストーンの
概念がないためです。つまり、「この機能がいついつまでには
提供可能」あるいは「この日時にはここまでの機能が提供可能」
ということは保証されていません。もちろん、いうまでもなく、
そのような保証をもとめられるいわれはSPI にもDebian JP
Projectにもないわけです。この間隙を埋める手段は... なにか
ありますか?私は思いつきません。
NTは TCOの削減には全く寄与しない事は既に知られています。
しかし、コストを見積もる事はできます。NTのロードマップは
いい加減なものですがなんとか使いものにならなくはない(た
とえば、今年いっぱいは5.0は出ないだろう、とか:-P)。この意
味で、現時点ではDebianではNTを置き換えられません。
4. dpkgについて
dpkgに関する課題についてはこれまでにも少しだけ投稿した事があ
りますが、いずれまとめ直します。rpmとの比較ということもちょっ
と考えています。またの機会にということで。
#E-Mail一通書くのに4時間もかけたのなんてはじめて。つかれた...
でもいいたいことの半分も言ってない様な気が。
-.- . -. -.
Ken Nakagaki <kenn@xxxxxxxxxxxxxxxxx>
「会社は主にそれ自身の慣性によって前進している」-- Gerry Spence