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[debian-devel:01456] Re: Debian "Social Contract"



しおばら@ベルギーです。

"Social Contract" と "Free Software Guidelines" の和訳を
拝見して気の付いたことをまとめます。

# うっ、17時までに出さないと、日本が木曜日になってしまう...

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### "Social Contract (SC)" と "Free Software ### 
### Guidelines (FSG)" の訳語の異同           ###
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(1) SC では「ソフトウ*ェ*ア」、FSG では「ソフトウ*エ*ア」に
    なっている。

    私は、「ソフトウェア」のほうが好きですが、表記の標準
    ではどうなっているのでしょう。

(2) SC では「ディストリビューション」、FSG では「配布」に
    なっている。

    私は、「ディストリビューション」を推奨します。なぜなら、
    「ディストリビューション」というのは、Linux の世界では 
    (たとえば) ...

       kernel を含む複数のプログラムパッケージを取捨選択し、
       インストーラとともにまとめた有機的なソフトウェアの
       集合体
       (上記は小生の捏造、まちがっていたら直してください)

    を意味しており、いいかえれば Linux の *業界用語* と
    考えられるからです。

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### "Social Contract" ###
#########################

(全般)

原文でひとしく we *will* ... となっているところが、場所に
より「... *します*」と「... *するつもりです*」の2とおりの
訳になっていますが、これらの使い分けがよくわかりません。

「...します」にそろえた方が、はっきりした意志の表明として
読めると思います。

(1. Debian will remain 100% free software)

2番目の文の前半は、

   「フリーソフトウェアの定義はたくさん*あるので* ...」

とすると、さらに原文に即した訳になるでしょう。

(3. We won't hide problems)

「隠し立て」を広辞苑で調べたら、「ことさらに包みかくす
こと」とありました。ここでは「隠さないこと」がメッセージ
ですから、「私達は問題を隠しません」と、さらっと言った方が
分かりやすいと思います。

(4. Our priorities are our users and free software)

4番目の文、We won't object to commercial software ... 
の訳

   「... 商用ソフトウェアに *敵対* することは ...」

は、響きが原文よりもかなり強いように思われます。原文の
語調は「異議はありません」とか「反対しません」の程度です。

# 例: (会議の席で) "Objection." -- 「異議あり」

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### "Free Software Guidelines" ###
##################################

(全般)

この文書の大きな主題は、第1条に出てくる the license of a 
Debian component です。任意の Debian コンポーネント 
(便宜的には main distribution のパッケージと考えてよい
でしょう) をとったとき、それに付随するライセンスが満たす
べき条件をこの文書で規定しているわけです。

続く本文で the license とあるのは、上記の the license of 
a Debian component を指します。日本語には定冠詞がありま
せんが、何らかの方法で the license を一般の license 
(第10条に出てきます)と区別することが望ましいわけです。

以下の例では the license を *「ライセンス」*、一般の 
license を *ライセンス* と表記します。

条文見出しに出てくる license はつねに無冠詞ですが、本文で
言及されている license の区別 (定冠詞による限定の有無) に
より、どちらであるかが分かります。

(1. Free Redistribution)

ためしに、第1条を上掲の表記を使って、まとめなおしてみます。

# 以下、原意のまとめは常体で示しますが、これは簡単のためで、
# 敬体の訳文に反対する意図ではありません。

   Debian コンポーネントのライセンス (訳注: 以下「ライセンス」
   と表記) は、何人に対しても、当該ソフトウェアを複数の出所
   からのプログラムを含む集成ソフトウェアディストリビュー
   ションの一部として、販売または無償譲渡することを、さまた
   げてはならない。
   「ライセンス」は、このような販売行為について著作権使用料
   またはその他の料金を要求してはならない。

# もとの訳では、2番目の文が抜けています。

この表記法だと、最初の文に訳注を補わなければなりませんが、
ひき続く本文で the license を「ライセンス」とはっきり示す
ことができます。

(4. Integrity of the author's source code)

見出しの integrity は「(誰かの手がついたりしないで) 
完全性を保っていること」が原義なのですが、訳しにくい
言葉ですね。

要は著作者人格権の一部である同一性保持権 (自分の著作物を
他人に改変されない権利) のことを言っていると思うのですが、
なかなかよい日本語を思い付きません。うーん、「保全」と
でも訳しましょうか。

# 例: territorial integrity of Japan -- 日本の領土保全

さて、最初の文の後半ですが、_only_ if ... と強調している
ので、訳文の方も「... 修正できる場合 *のみ* に限られます」
と「のみ」を補うと、さらに原意に即した訳になると思います。

それから細かいことですが、 patch files は 「パッチファイル」
または「パッチ」でよいのでは?

さて、2番目の文は、

   「ライセンス」は、改変したソースコードから作成した
   ソフトウェアの配布を *明示的に許可しなければならない*。

の意味です。著作権の世界では、明示的に許諾されていない
事柄は (基本的に) 禁止なので、free software を名乗る
以上、これは大変重要なライセンス条項になります。

3番目の文では、... may require ... と言っているので、

   「ライセンス」は、派生著作物に原本とは異なる名前や
   バージョン番号を付すよう *要求してもよい*。

の意味です。

(5. No discrimination against persons or groups)

法律的な読み方をすれば、person は natural person (自然人) 
と legal person (法人) を含むことになるので、訳は「個人」
よりも「人」の方がよいと思います。

また any も訳してあげてください。

以上をまとめると、

   「ライセンス」は、いかなる人またはグループをも差別
   してはならない。

の意味になります。

(6. No discrimination against fields of endeavor)

2番目の文は、例示のためのものなので、a business は 「ある
(特定の)ビジネス」の意味です。これを一般的に「ビジネス」と
訳してしまうと、原意が見えにくくなります。

ここには具体例があがっていませんが、たとえば「パソコン製造
販売業でこのソフトを使ってはいけない」というライセンス条項が
あったとしたら、これは第6条から逸脱するわけです。

同様に、この文の後段も (いろいろな学問の分野があるなかで、
たとえば)「*遺伝学* の研究にこのソフトを使ってはいけない」
というライセンス条項があったとしたら、これは第6条から逸脱
することを示しています。

# ここは geneTic research です。geneRic research ではあり
# ません。もし、generic だったら、例示としての迫力があり
# ません。

(7. Distribution of license)

ちょっと分かりにくいですが、

   (all to whom the program is redistibuted) = (those parties)

です。よって、原文をまとめなおすと:

   プログラムに付随する諸権利は、当該プログラムの再配布を受けた
   すべての者に、これらの者による新たなライセンス手続を要する
   ことなく、適用されなければならない。

という意味です。

たとえば、「使用料は無料であるが、新規ユーザは *必ず* ユーザ
登録をしなければいけない」というライセンス条項ががあったと
すると、これは第7条から逸脱します。

(8. License must not be specific to Debian)

1番目の文、せっかくの Debian 文書ですから depend は 「依存
する」と訳しませんか。:-)

# 例: libc6-dev depends on libc6. 
#     -- libc6-dev は libc6 に依存する。

冗談はさておき、2番目の文は難解ですね。前半を構文解析すると

If the program is
    extracted from Debian
      and
    used or distributed
        *without* Debian
          but 
        otherwise *within* the terms of ...

という構造になっています。

また、後半に出てくる all party to whom ... は、第7条に出て
くる all to whom ... と同じです。ここでの party は、権利
主体一般を指すので、個人も含みます。

最後の that 以下の原意は「Debian システムに *関連して* 許諾
された」です。

以上をまとめると、2番目の文の意味は次のようになります。

   プログラムが Debian から抽出され、Debian の範囲外で、しかし
   ながら当該プログラムのライセンス条件の範囲内で、使用または
   配布される場合、当該プログラムの再配布を受けたすべての者は、
   Debian システムに関連して許諾されたのと同一の権利を保有する
   べきである。

たとえば、「このソフトは Debian システムで使用する場合に限り、
自由に *複製再配布および改変* ができるが、Debian 以外のシステ
ムで使用する場合は、*複製再配布のみ* が可能である」というライ
センス条項があったとすると、これは第8条から逸脱します。

(9. License must not contaminate other software)

見出しに出てくる contaminate の原義は「(接触により)他のものの
完全性/純粋性を損なうこと」です。

よって、「侵害」は contaminate の訳としては強すぎます。「汚染」
とか「汚損」くらいが、訳語の強さとしては穏当だとおもいます。

また、本文に contaminate は出てこないので、最初の文は原文の
流れに沿って、たとえば ...

   「ライセンス」は、当該ライセンスにかかるソフトウェアと
   ともに配布される他のソフトウェアに制限を加えてはならない。

のように訳をとったらいかがでしょう。

(10. Example licenses)

この条に出てくる licenses は、いままで見てきた the licence 
とは違うものです。よって、もし私が最初に例示した方法によると
すれば、この条にでてくる licenses は、カギ括弧なしで 
*ライセンス* と表記することになるでしょう。

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### 編集後記 ###
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不明の点、誤っている点等ありましたら、ぜひご叱正をおねがい
します。

私のコメントの中ですこしでも参考になることがありましたら、
大変うれしくおもいます。

# 当地はまだ 16:30。日本は 23:30。日本の水曜日中に
# 届きますように ...

それでは、また。

Michael Osamu Shiobara