[Date Prev][Date Next][Thread Prev][Thread Next][Date Index][Thread Index]

[debian-users:57794] Re: The Debian Administrator's Handbook の日本語翻訳



長南と申します。

debian-doc には参加していないので、こちらに書きますが、お許しください。

それにしても、すごいですね。原文 450 ページですか。1 日 2 ページ
訳しても、一年近くかかってしまう。1 日 10 ページ訳せれば、45 日
ですが、それはそれでパワーがすごい。

実は info 文書を訳しているので、「7.1.2. info 文書」の次のくだりを
見たときには、びっくりしました。

  Note that the info system does not allow translation, unlike 
  the man page system.

  info システムは man ページシステムと異なり翻訳を禁止されている点に
  注意してください。

えっ、info は翻訳を禁じられているんですか。それは困る。

GNU の info 文書の冒頭には、たいていこういう文言があります。

  Permission is granted to copy, distribute and/or modify this
  document under the terms of the GNU Free Documentation License,
  Version 1.3 or any later version published by the Free Software
  Foundation; 

"GNU Free Documentation License" の「8. TRANSLATION」によれば、

  Translation is considered a kind of modification,

だそうですから、少なくとも GNU は info の翻訳を許可しているのでは
ないでしょうか。

とすると、問題の文章は、info 文書の著作権者、あるいはライセンス
授与者が翻訳を禁止しているということではなさそうです。おそらく、
system がミソなんでしょう。

  info というシステム (すなわち、texinfo 形式で原稿を作り、makeinfo 
  で info ファイルに変換して、info コマンドで閲覧する) は、man page の
  システム (こちらは、roff 形式の原稿を man コマンドで閲覧する) とは
  違って、翻訳を許さない (翻訳できない、翻訳不可能な) システムである。

ということなのではないでしょうか。「翻訳不可能な」というのは、
実際には誇張です。翻訳できないことはありません。でも、「info 文書は
翻訳が困難だ、翻訳に向いていない、英語のことしか考えていないシステムだ」
というのなら、info マニュアルを翻訳したものとして、骨身にしみて納得
できます。

texinfo について御存じなら、以下は余計なことですが、例をあげて
説明しておきます。メールソフト Mew の日本語 info マニュアルの最初の
ページのメニューは、こんなふうに表示されます (Mew の info なら、
手元にある方も多いのではないかと思って、例にとります)。

  * Menu:

  * Overview::                    はじめに読んでね
  * Viewing::                     メッセージを表示する
  * Composing::                   メッセージを作成する

日本語版のマニュアルの冒頭のメニューに英語が出てくるのは (それも、
「前書き」「メールの表示」「メールの作成」といった日本語にした方が
自然なのに)、変でしょう。でも、これは合理なのです。

texinfo ではメニューの各項目の書式はこうなっています。

  * メニュー項目名: そのノード名(必須).	説明

そして、メニュー項目名とノード名が同じならば、メニュー項目名は
省略でき、次の簡易書式が使えます。

  * ノード名::		説明

ですから、Mew の冒頭のメニューでは、メニュー項目に日本語を
使いたければ、texi ファイルにこう書くことも出来ました。

  * 前書き: Overview.		はじめに読んでね

しかし、そうすると、info コマンドによる表示でもこうなってしまいます。

  * 前書き: Overview.		はじめに読んでね

英語のノード名を見えなくすることができないのです。日本語のマニュアル
なのに、英語まじりのメニューにしなければならない。美しくないでしょう。
この程度の短いものなら、我慢できるかもしれませんが、メニュー項目名や
ノード名が長い場合には、冗長過ぎて非常に見にくいメニューになります。

ノード名を日本語にすれば、すっきりしたメニューになるかもしれません。
しかし、ノード名を使用している箇所をすべて書き変えなければなりませんし、
日本語のノード名で info がまともに動くかどうか、おぼつかない気もします
(試したことはありませんが)。info コマンドでは、日本語で検索することも
できないくらいですから。

そんなわけで、Mew の著者のように、ノード名とメニュー項目名を同一の
英語にしておくというのは、合理的な妥協なのです。

例をひとつしか挙げませんでしたが、info マニュアルが、というより 
texinfo 形式の文書がシステム的に訳しにくいものだということは、
わかっていただけたでしょうか。フランス語やドイツ語なら、ノード名の
問題なども、CJK の場合ほど苦労しなくてすむのではないかと、思いますけれど。

# 穿った見方をするなら、みんな info 形式が嫌いなんだと思います。
# マニュアルなんて、簡潔な man ですむのに、なんで info にしなければ
# ならないんだ。だから、info に対しては、みんな見方が厳しい。

長々と書いてきましたが、そんなわけで、

  the info system does not allow translation

は、

  info システムは翻訳がたいへん困難である。
  info はシステム的に翻訳が非常に面倒である。
  info は翻訳に向いていない (適さない) システムである。

といったことではないでしょうか (もっとよい訳し方もあるでしょうが)。
もっとも、info マニュアルの著作権者やライセンス授与者が翻訳を禁じて
いるという事実があるのならば、話は別ですけれど。

ついでに、もう一つ。「7.1.2. info 文書」の最初の部分です。

  The GNU project has written manuals for most of its programs 
  in the info format; this is why many manual pages refer to the 
  corresponding info documentation. 

  GNU プロジェクトはほとんどのプログラムのマニュアルを info フォーマット
  で書いていました; そのため、多くのマニュアルページでは対応する info 
  文書が参照されています。

この "has written" は、「書いていた」というより、「書きてきた、
書いている」の方だと思います。また、"refer to" は「参照されている」
でもよいのですが、「引き合いに出す」、平たく言えば、「どこどこを見よ、
参照せよと言っている」の意味。ls のマニュアルで言えば、ここですね。

  SEE ALSO
     Full documentation at: <http://www.gnu.org/software/coreutils/ls>
     or available locally via: info '(coreutils) ls invocation'

  (GNU coreutils 8.23)

GNU coreutils 8.22 では、こうなっていました。

  SEE ALSO
     The full documentation for ls is maintained as a  Texinfo manual. 
     If the info and ls programs are properly installed at your site, 
     the command

              info coreutils 'ls invocation'

     should give you access to the complete manual.

それから、もう一つ。これはほとんど好みの問題ですが、コロン (:) や
セミコロン (;) は、日本語の句読法にはありませんから、できるだけ
使わない方がよいのではないでしょうか。句点でたいてい間に合いますし、
句点で間に合わない場合も、セミコロンなら、間に and があると思って
訳せば、たいてい文章がつながります。とは言え、使う必要がある場合は、
使えばよいと思いますし、コロンやセミコロンも日本語にあった方がよい、
だから使う、というのも一つの見識だと思います。また、今更直すのも
大変すぎるというのも、わかります。

-- 
長南洋一