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[debian-users:16976] Dice White Paper (1999/07/26 rev 0.58)



むつみです。

 校正に手間どってしまい、少し遅れてしまいましたが、お約束通り、Project
Dice がなにをやろうとしているかということを書いた文書です。

#draft プレビューしてから、メンバーで校正し終わるのに 3 時間もかかっ
#ちゃったし。

----- ここから
Project Dice White paper (1999/07/26 rev 0.59)
○Debian GNU/Linux のかかえる問題点

 1)サイズの大きさ
    現在開発中の potato では、main, contrib の binary CD だけで 3 枚に
    なろうとしている。

 2)インストール時の dselect の利用
    これには、さまざま意見があるだろうが、少なくとも世間一般には
   「dselect = ダメ」という概念が刷り込まれてしまっているのは間違い
    ない。また、実際問題 dselect のインターフェースが「特別」優れてい
    るということもない。

 3)インタラクティブなインストール処理
    ({pre,post}{inst,rm}における、対話処理)
    対話式の処理が入ることによって、インストールの作業時にマシンに張り
    付いている必要がある。また、このことから大量のマシンへのインストー
    ル作業を行うことが困難。

 4)インストールプロセスそのものの問題
    インストーラ自体の見せ方/機能などが貧弱。各種ハードの自動認識機能
    などもない。

 つまり、Debian GNU/Linux の普及を妨げるものとして、

 A) 実際の配布を行うのが非常に困難であること
 B) 実際に配布されたものを入手したユーザがインストール作業を行う時点で
    の障壁が高すぎること

が、大きな問題点であると我々は認識している。

○Project Dice の目的

 簡単に言えば、以上のような問題点を解決すべく、実作業を行ってみようと
いうのが Project Dice である。

 A) 実際の配布を行うのが非常に困難であること

-> Debian GNU/Linux の分割配布の可能性
    それ自体が単体で十分利用できるコア部分とそれ以外の部分。
    もしくは、それ以外の方法による分割配布の可能性とその提案。
    また、その配布形態を支援するための各種 tool の整備。

 B) インストールの障壁の高さ

-> インストールプロセスの改良
     非インタラクティブインストールの実装。

これらの成果はすべて Debian Project にフィードバックしていく。

 また、これらの成果を利用した配布形態の一例として Dice を作成する。
Dice を普及させることは、結果的に Debian GNU/Linux 自体を普及させる
一つの方法であると考えている。

 また、付加的な(実験的な)取り組みとして以下のような研究課題も挙げておく。

 ・メール以外のインターネットメディアを利用した開発形態の検討
 ・オープンプロジェクト内での少人数によるクローズド開発のメリット/デメ
   リットの検証
 ・メンバー間での新しい情報共有の方法の模索

○実際の Project Dice の活動

 究極的には Project Dice の成果がすべて Debian Project にフィードバック
され、Dice のような配布形態が Debian generic なものとなること。また、
Project Dice の活動そのものが Debian Project に吸収され、debian-boot +
debian-cd ML の置き換えとして機能することを目指す。

 Project Dice はそのための Task Force であり、永続的な活動を目指すため
のものではない。

 その活動の成功/失敗いかんに関わらず、結果が出たと判断した時点で解散する。


○実際に期待される成果物

 上記の目的を達成するために、以下のようなサーベイ/検討/提案/実装を行う
予定である。

 1) 分割配布を補助するためのツール群の整備

   依存関係を整理して、パッケージ/ソースを取り出し CD image を作成する
   ツールの作成が急務である。現状 Yacs というツールが出ているため、そ
   のツールのサーベイ、利用可能かどうか、改良するならどの点かという点
   の調査も行っている

 2) dselect を利用しない

   インストール時に dselect を利用しないとなると、可能な限り apt で処
   理を行うことになる。この apt の利用に関する周辺技術と apt 自体の問
   題点の洗いだし、改良ポイントなどを探る。

 3) 非インタラクティブなインストール処理

   非インタラクティブインストールの実装に関しては、現在
   Wichert  Akkerman & Joey Hessによる debconf、Goswin Brederl による
   dpkgconf が発表されており、その設計/実装に関して調査を行っている。
   また、現在開発中の dpkg v2 (Debian Project 内の数人によってクローズ
   ドに開発が行われている)の成果も期待できる。

 4) インストーラそのものの強化

   いくつかアイデアはあるが、最低限のインタラクションしか要求しない、
   お手軽モード的なものは必須。

 5) Dice

   以上の成果を利用して、その有用性/問題点を確認するため Debian
   GNU/Linux のサブセット的配布である Dice を作成する。今まで述べてき
   たことからわかるように Dice の作成には、100% Debian GNU/Linux の
   .deb を利用し、それを整理して取り出す形になる。
   つまり、足りないもの(Dice の配布 CD に納められていないもの)を補えば
   Debian GNU/Linux そのものである。

 6) Dice Tools

   これはほとんどオマケ的なもので、Vine Tools がライセンス的問題によ
   り Debian にcontribute できないことから、類似する物を DFSG Freeで
   開発し Debian への contribute しようとしたことから始められた。
   とりあえず、外向けのインパクトなど考えたことから Dice Tools と名
   乗っているが、場合によっては Dice がリリースされる前に Debian に
   Upload されるかもしれない。

 7) Project Dice の開発形態に対する考察

   最終的に、この部分がまとめられるかどうかは難しいのかもしれないが、
   今回のような  Debian JP Project とはちがった形態のチームを組んだこ
   とによるメリット/デメリット、メンバー間の情報共有の方法に関する社会
   学的見地からの考察なども視野に入っている(論文でもまとめられれば面白
   いかも)。

-------------
以下、具体的な補足

 ・プレスリリースの意味

   7/22 に発表したリリースノートからは、以上のような意図を読み取るのは
   不可能でしょう。なぜならそもそも、以上のようなバックボーンとなる
   話の内容を意図的にはずしたからです。

   あれは上記の成果のうち、外から見てわかりやすい部分、つまり Dice 自
   体に絞ってそのリリースのみをうたったものです。

   なぜそうしたのか、それにはいくつか理由があります。

   まず、一つ目は、Dice 自体に目を集中させることで Debian GNU/Linux 自
   体の普及が図れることを狙ったからです。

   先ほども述べたように、Dice をリリースすること、それから Dice 自身を
   普及させることは目的ではありません。Dice の形態が Debian GNU/Linux
   の配布の未来形であるという状況にもっていくことが目的です。
   つまり、われわれのプロジェクトが成功すれば、Dice そのもの(あるいは、
   Dice にかわるそれにちかいもの)が Debian GNU/Linux の一般的な配布
   の形であるということになるでしょう。ですから、現時点で Dice が普及
   することは、結果的に Debian GNU/Linux のユーザそのものの増加につな
   がっていくとわれわれは考えています。

   ですから、われわれとしては、新しい distribution をつくってるつもり
   は毛頭ないですし、その点を強調する意味で 「新しい distribution で
   はない」と書きました。

   もう一点は、非常にネガティブな考えなのですが、例えば上記の「Debian
   GNU/Linux の問題点」のような記述をすべて削除したかったということで
   す。最初はこの部分はリリースノートに含まれていました。しかし、こ
   のことで Project Dice が Debian GNU/Linux を批判し、そこから独立し
   たグループであるというとらえられ方をされるのはまずい(事実そうではな
   い)ということで、ネガティブな表現はいっさい削除しました。

 ・なぜ、Debian JP Project の活動として行わなかったのか

   まず、Debian JP Project のそもそもの活動とは主旨がずれているとい
   うのが理由です。

   Project Dice の作業は Debian の l10n/i18n/m17n 化といった作業とは
   レイヤーの異る作業だと思います。極端にいうと Debian GNU/Linux とい
   う distribution そのものの位置付けを大きく変更してしまうことになり
   かねない作業です。多分、Debian Project 内部でもいろいろな反発を受け
   るでしょう。

   このような作業に対して「Debian JP Project」だよ、という肩書きを持っ
   て取り組むのは非常に危険なことだと考えています。失敗したときに
   Debian JP Project に対して、大きなダメージを残すような結果にはした
   くないんです。もう一点あるとすれば、(実際には、そんなことは有り得な
   いと思っていますが) 「Debian JP Project という日本人集団が、なんかお
   れら(Debian Project)を引っくり返すような、わけわからんことをはじめ
   たぞ」という色眼鏡で見られる可能性を可能な限り除去したいというのも
   あります。

   先ほども述べたように Project Dice は、短期集中型の Task Force 的な
   プロジェクトです。永続的なものだとは思っていません。成功だろうが失
   敗だろうが、結果が出たと判断したらとっとと解散するつもりです。

   それに対して、 Debian JP Project は今後も継続的に行われていかなけれ
   ばならない Project だと思っています。その継続的な活動にたいして、
   Project Dice の行ったムチャがわるい影響を与えるのを避ける意味での
   別プロジェクトです。

   もう一点あるのが、その短期型の Task Force 的なプロジェクトの運営を
   迅速に行うために意思の疎通のとりやすい形態にしたかったというのもあ
   ります。思い付いたときに思い付いた作業ができる、思い付きで提案して
   短時間のうちに承認がされる、議論を終結させられる、という状況で走っ
   てみるということをやってみたかった。これには、最初の目的でも述べて
   いるように、多分に実験的な意味合いも含まれます。

 ・debian.gr.jp について

   これは、Project Dice とは直接は関係ありません。既に、多数の人がご存
   じだとは思いますが、linux.gr.jp、linux.co.jp が(いわゆる)ドメイン屋
   によって取得されてしまっています。そのような状況を避けるためにとりあ
   えず取得を行ったものです。その名称も取得のためだけにでっち上げたもの
   で、特に意味はないです。 特に使い道が決ってるわけでもないです。

   占有するつもりもないんですが、現状個人資産ですんで、積極的なアカウ
   ントの発行などはおこなってないです。

   ちなみに、debian.co.jp は会社組織じゃないんで取得できていません ^^;;

   なお dice.debian.gr.jp で活動を行ってるのは、さきほども述べたように
   Debian JP Project としての活動とは分離しておきたかったので、そのた
   めにリソースも分割するという配慮をしたということです。現実問題とし
   て Debian JP Project のリソースは、現在 Disk も借りているような状態
   であり、とてもではないですが、そこから別プロジェクトに切り出せるよ
   うな(または、そこであらたなプロジェクトを立ち上げるような)ものは、
   存在しないというのが大きいです。

   そこで、debian.gr.jp を借りるという形態にしました。

----- ここまで
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  ishikawa@xxxxxxxxxxx, ishikawa@debian.org, ishikawa@debian.or.jp,
         ishikawa@xxxxxxxxxxxx,  ishikawa@xxxxxxxxxxxxx
            ** 石川 睦@日本 Linux 協会 **